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『オープンディスカッション、または大喜利』その3 (2018.11/23,25 イリカ・ファン・ローン)【アーカイブ版】
2018年度オープンスタジオの関連プログラム、『オープンディスカッション、または大喜利』のアーカイブです。
最後はイリカのスタジオから。真っ暗なのでまずは鑑賞していただき、和室へ移動しての大喜利です。

イリカ・ファン・ローン / Erica Van Loon
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《最も長い波に乗って》The Longest Wave We Surf
Two-channel video Installation

金澤:今回のプロジェクトは、来日直前に滞在していたアマゾンで知った蟻の存在について深めながら、茨城滞在中に得た知見を組み合わせた映像インスタレーションです。樹上で生活しながらも、落ちると水面や地面に着地する前に体勢を変えて、もう一回樹に戻れる性質をもった蟻の習性を聞かせてくれる専門家の話がナレーションになっています。
存在は知っていた合気道を、彼女はアーカスに来てもっと深く知るようになりました。というのは、茨城県は合気道の発祥の地で、合気神社があり、彼女は合気道の道場でそのスピリットだけでなく、身体の動きも学びました。相手の力の方向を変えることで相手も傷つけず自分も傷つけない武道の考え方に感銘を受けたようです。それらは何か、もっと大きなものの流れの一部なのではないかというイメージから、とても長いスパンで伝わっていくスロー地震のリサーチもしました。大きな流れ、サーキュレーション、フローというものをテーマにした作品です。
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イリカ・ファン・ローンとかけて何と解く?
長谷川:電車の中でジャンプしたら元の場所に着地すると解く。

その心は?
長谷川:「なんでか全然わかんないです。」(会場笑)
物理法則、慣性の法則、頭では理解しているつもりでも未だに納得がいかない。電車はスピードを出して移動しているのに、車内でジャンプしたら自分は浮くから元の位置に戻るわけがない。子どもの頃やっていたそれを誰に聞いても未だにわかりません。(会場笑)
例えばスロー地震も実は数年単位で微振動があるというが、考えによってはただ騙されている可能性もありますよね。つまり、僕らの身体のインターフェースを超えた現象なので、僕らの身体だけでは知覚できない別の何かを挟まないと納得できない。その変化のイメージの見せ方が面白い。ずっと変わり続けているけれど、ぱっと見た時には何も変化のない川にしか見えない。瞬間的な動作や力の受け流しである手だけの映像と、スロー地震のとても大きな単位と、蟻の小さなミクロの話と…という、引いたり近づいたりするイメージで納得させてくるのが僕は面白かったと思います。

金澤:理論的には言われていることも本当なのか?ということを確かめようとする。

長谷川:そう。確かめ方の開発をしてくれています。2億年前と言われても感覚は絶対わかりません。2億年前という単位としてではなく、イメージとして与えられたときにグッときます。手の動きは蝶々に見えてバタフライエフェクト* を思わせ、いろいろ勝手にイメージが牽引してくれます。
蟻と地震が映像に出てこないのが良いですよね。ミクロとマクロはテクストで説明して、中間的なイメージで説得力を高めるから。
* バタフライエフェクト:非常に些細で小さなことが理由で、さまざまな出来事を引き起こし、徐々に大きな事象に変化していく現象)

金澤:彼女なりの方法でその不思議を確かめてみせてくれようとしているということですね。
もちろん、バタフライエフェクトとバタフライは関係ないし、手の動きも関係ないですが勝手に導いてくれる。題材的には川と手の動き、リサーチしたものは蟻で、映像にはありの姿もスロー地震もない。レベルもテクスチャも全然違うものですが納得させられますね。
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イリカ・ファン・ローンとかけて何と解く?
三本松:優等生の通信簿と解く。

その心は?
三本松:アマゾン、蟻、合気道、全部A。(会場笑・拍手)

長谷川:軸も英語でAXISですね。

金澤:何も付け足すことがないほど美しいですね。

三本松:セルジさんのインスタレーションに『蚕の夢』という明治期の本のコピーがあったのですが、最後のほうを読んでみたところ「私にはこうしてちょうだい」と蚕に女性口調の一人称で語らせていた。それが、こちらでは蟻を「彼女」と呼んでいることとも繋がりました。
映像ではアマゾンも合気道もスピードを変えている。現実の速さと違えることで、マーシャルアーツとしての合気道ではなく、ダンスのような周期に変わっている。
それがスロー地震の長いスパンの流れとも関わっている。作家というのは現実をそのまま取り出すのではなく、手を加えることで違うものに見せ、それらが共存することに気づかせてくれる存在だなと改めて思いました。
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『蚕の夢』(エリカ・セルジのスタジオにて)
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イリカのリサーチメモ

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イリカ・ファン・ローンとかけて何と解く?
五十嵐:滞在制作と解く。

その心は?
五十嵐:「どちらも受けるところの体勢/体制が重要でしょう。」
これだけ皆さんが集まって、受入れ体制側が素晴らしいのだろうな、というのがひとつと、作品とは繋げられなかったけれど、循環の話をされていて、合気道のものが入って2つのプロジェクションがあって、すごくセーブしているのを感じました。蟻が上に上がって落ちて、合気道の緩やかな動きがあった時に、川の水の流れの時、圧倒的な「死」みたいな、流されてしまうような感じが強くしました。

金澤:イリカから聞いた、ずっと倒れ続けることができるのは合気道、平和だなという感じがありました。確かに、ずっと受け身をとり続けることができる。そこから生と死の話は初めて伺った視点です。死を感じますか?

五十嵐:そうですね。美しい水面の流れからそれに落ちてしまった蟻の話に見えてしまって。一瞬でぱっといなくなってしまうような、刹那的なものを同時に感じた気がしました。

金澤:確かに、大きな目で見れば命の循環もひとつのフロー、サーキュレーションでしょうね。
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イリカ・ファン・ローンとかけて何と解く?
黒澤:ナルキッソスの鏡* あるいは生まれ変わったニャンコ先生と解く。

その心は?
黒澤:「深入りすると溺れます。」
ニャンコ先生というのは、昔のアニメーション『いなかっぺ大将』にでてくる柔道の秘技を教える猫の先生で、高いところから落ちても必ず着地する技の持ち主。でもさすがにアマゾンの樹木の高さから落ちたらきっと大怪我するだろうし、それにニャンコ先生は合気道ではなく柔道だ、と突っ込まれ深読みされるとこの話は溺れる…というのはまぁ、冗談で。
作品を通して、僕は水の映像にずっと引き込まれていて、ナルキッソスが水面を覗き込む姿と、蟻も落ちれば迎える「死」を想像していました。
合気道は武道だから、いざとなれば達人同士なら許し合うけど、双方の力量にもし微妙な落差があれば相手を倒してしまう。点数の勝負ではない世界。
地震もスローだろうが何だろうが、いざとなれば命を落とす現実がある。そんな、絶妙なバランス感覚も作品から感じました。
アマゾンから持ってきた実写の素材で表現した映像作品ですが、あまり深入りせず…つまり落水〜水没せずに、メタファーの状態でぎりぎり踏みとどまってその直前で完成させる。実に面白い見せ方で綺麗です。
その先=向こう側にある世界をどうにかこう、シンパシー&リアリティを感じる領域にまで引きつけて、その瀬戸際の水面までで留まるという表現がすごくうまい。
* ナルキッソスの鏡:恋に落ちた水面に映る相手=自分に口づけしようとして水の中に落ちて死ぬ話)
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金澤:なるほど。私は彼女の作品は、スピリチュアルな印象をもちつつも絶対に何か確かな事実を手放さない感じで踏みとどまって、それが何か煙に撒かれるのを防ぐような印象をもちました。
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イリカ・ファン・ローンとかけて何と解く?
山峰:柳と解きます。

その心は?
山峰:どちらも受け流す力があるでしょう。
直感的にしか言えませんが、合気道の型自体が「円の形を描く、八の字を描く、受けて流してそれを返す」という型の武道であって完全な対立構造を作らない。蟻の話も、下に落ちてしまって狙われる、そこで生存競争を得ることにより回避するその力を流しています。
地震の話にしても、耐震ではなく免震という力を逃すことで衝突を避ける。特に相違から1回受けることも重要です。それはレジデンスも同様に、そこにある生態や風習、文化を一回受け止めて、その表現に起こす。そこで受けるけれど流すというのもあります。モチーフも作品のタイトルとしても、そう言える感じがしました。
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つくば合気道会守谷道場の鈴木先生にならうイリカ。

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イリカ・ファン・ローンとかけて何と解く?
澤渡:「災害列島へようこそイリカさん」という感じで…北斎に憧れたヴィンセント・ファン・ゴッホと解く。

その心は?
澤渡:日本の天災/天才にインスピレーションを得ました。 (会場拍手)

金澤:確かに2つ重なっていますね。ファン・ゴッホは北斎をジーニアス、"天才”と思ったということで、イリカの”天災”は自然現象。

澤渡:オランダからいらしたのでゴッホとあわせました。
天災、自然災害が非常に多い日本の自然観は独特なものがあり、海外作家と話すと自然に対する捉え方が非常に違うと感じることがあります。
西洋的には自然は征服するものだと思います。イリカさんはサイクル、円を意識して制作していると思いますが、私の日本的な自然観では、自然や地球を考えるときに円はしっくりきます。すべてひとつのなかに収まっている。アマゾン川は映像的には一方向でも、実際は円を描いて流れています。
不思議な映像で、視点の所在がよくわからなくて、川がどこから流れていて自分がどこにいるのか非常に掴みがたい印象を受けました。自分の身体性に意識して合気道とリンクさせていて、一見、動きが左右バラバラに見えますが、さまざまな円形が少しずつ繋がっていると感じました。
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イリカ・ファン・ローンとかけて何と解く?
田中:KYと解く。(会場笑)

その心は?
田中:空気を読むとは日本的な概念。
間合い、空気、環世界の話を描いていると思いました、環世界とは、研究者ヤーコブ・フォン・ユクスキュルが提唱した言葉で、『動物はそれぞれ独自の感覚から世界を見ている』という考え方です。
例えばダニなら人の血中にある酪酸が放出する匂いとその体温を感じ取る機能だけがあり、耳や目がない。優劣ではなく単なる感覚の違い。「空気を読む」とは皆同質である、同じ考えをもつことに基づいて作られています。
例えば目が見えなければアイコンタクトもできないので空気を読めないですよね。なんとなく雰囲気を感じ取れても。KYはその条件の違いを含めていないからこそできること、違いをポジティヴに受け取るなかで生まれるもの。蟻の話も蟻単体で成立しているのではなく、環境でさえ他者でも違う存在として相互作用しあっています。日本的な合気道を取り入れながらも環世界的な話もあってKYをポジティヴに捉えています。

金澤:今回は空気を"読める”の方ですか?

田中:両方の意味でも空気を"読まなくていい”。合気道は読んでいると思うが、蟻も読んでいるのか、日本の「空気を読む」と少し違い「皆同じであれ」ではないKYの良さがあると思います。

金澤:それぞれ違うことをわざと重ね合わせて、ひとつの世界観を作るイメージですね。
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金澤:天災、環世界の話、面白いですね。生と死も新しい世界。発展していくイメージもあります。天災は建築の世界のメタボリズムを思い起こさせます。建築は朽ちてなくなるものである、あるいは天災によって壊れてなくなるものだから復元可能で、別のものを新しく作って入れ替わることができるのがコンセプトだと思いますが、新しくしていく再生のイメージがこのディスカッションから浮かび上がってきました。

イリカ:
素晴らしいコメントありがとうございます。メタファーが多様な形で現れていて非常に面白かったと思います。
環世界の話の指摘は、私が制作するうえで確かに考えていることです。科学に対して、とりあえずそれが真実であるという前提で考えていますが、科学で言われていることも一部物語として扱える。特に地質学や地震学など最近でてきた学問は暫定的な事実でもあるので、私はそれをアーティスティックに遊ぶ余地のあるものと考えています。合気道的な『他者をいたわる』とか『思いやる』ことは表せたと思っていて、この滞在で作品ができたことは非常に満足です。
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最後に質疑応答後、登壇者からのコメントをいただきました。

五十嵐:実は僕、昔ここに出入りしていたことがありました。ジハドさんと話したんですが昔、椎名さん(椎名勇仁:2007年度招聘アーティスト)がカッパのリサーチをしていて、子どもたちにカッパの絵を描いてもらってモーフィングして立体化したら市長(当時:会田真一市長)に似ていて、圧倒的な「他者」として市長だった話がよみがえり、10年前の話が繋がって面白かったです。

澤渡:日頃、近代美術館の人間なので完成した作品を相手にすることがほとんどですが、今回は3人の作家さんの途中経過、プロセスを見ることができてとても面白かったです。願わくば、完成作品も観たいです。AIRの宿命的に、メインは途中経過みたいなところがあるかと思いますが、私も今後気を付けて追っかけてみてみたいです。

田中:私はもともとデザインから始まっているので、作家性やアートの為のアートが苦手で、作品を観るのもそういう作品だと辛いのがあったんですが…。今回皆さんの文脈がしっかりしていて、日本でやる意味も考えられていて面白かったです。特に最初のエリカさん、どういう作品に発展していくのかは興味深いです。

山峰:皆さんの作品を観て、滞在制作はその瞬発力が必要だと思うんですが、そのなかで日本の文化、最初にこういう設計でいこう、というところと、やってみて、実際きてみないとわからない部分もあったと思います。それぞれの手法で咀嚼しながら、自分の表現の側に引き寄せていくプロセスを感じ取れたことが刺激的で、この短期間でちゃんとひとつの問題提起になるような形にまでなっているのは、アーティストの力を感じるのでとても面白かったと思っています。次にどんな形に発展させていくのか、ここで得たエッセンスをどう咀嚼していくのか見ていきたいと思っています。


金澤:初の試みとなった現代美術についての大喜利でディスカッションしてみました。無茶ぶりをした居合いではないですが、たいへん緊張感のあるやりとりの中で非常に面白い視点をたくさんいただきました。今日は会場の皆さん、目撃しにきてくださり、本当にありがとうございました。(会場拍手)

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以上、2018年度のオープンスタジオ関連企画、「オープンディスカッション、または大喜利」の様子をお届けしました。金澤さんと、2日間にわたりお集まりいただいたゲストの皆様、リピートしてご来場くださったオーディエンスの皆様、ありがとうございました。そして、この長時間にわたるディスカッション(約5時間!!)の内容を逐次通訳してくださった、池田哲さん、ありがとうございました。最後に記念撮影を。
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初日の面々。[左より:金澤さん、長谷川さん、田坂さん、三本松さん、黒澤さん] とオフショット↓
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2日目の面々。[前列左より:山峰さん、田中さん、澤渡さん、五十嵐さん、金澤さん]
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OS最終日のクロージングにて。
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お疲れ様でした!

2018-19年度活動記録集はこちらのサイトからもダウンロードできます。是非御覧下さい。
ダウンロード

写真:加藤甫
文字起こし/編集:石井瑞穂










# by arcus4moriya | 2021-04-09 19:30 | Open Discussion_2018
『オープンディスカッション、または大喜利』その2 (2018.11/23,25 ジハド・ジャネル)【アーカイブ版】

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                    飼 い 慣 ら す デ モ 
《飼い慣らせないモンスターをde-monsterする実演》
Demonst(e)rating the untamable monster
Two-channel video installation

次はジハド・ジャネルのスタジオでの大喜利です。
ジハド・ジャネル/Cihad Caner

金澤:ジハドはトルコからきて元フォトジャーナリストとして活動していました。シリア難民問題などの悲惨な事実、イメージを伝えることに倫理的な疑問をもっていて、アーカス滞在中は、他者と自分たちとの違いをどのように人々は表してきたか?をテーマに、日本の妖怪の形、印象をリサーチしてきました。壁に掲げられているのは粘土で作ったモンスター文字です。文字は歴史的なものと今との接続を考えたときにできたものです。
文字が書かれた窓の、白くなっているのは彼が作ったヨーグルト。スー…ハー…と息苦しそうにしている映像は、日本の妖怪の形象・見た目と、自分の出身であるメソポタミア辺りのモンスターの形を混ぜ合わせ作ったイメージを3Dアニメーションにしています。モンスターが歌を歌い、モンスター自身から発する言葉による、モンスターについての考察が聞こえてきます。
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ジハド・ジャネルとかけて何と解く?

長谷川:公園での遊びナンバーワン、と解く。
その心は?
長谷川:どちらも鬼ごっこ。
鬼ごっこの良いところは1人がずっと鬼をしないところです。ゲームごとに鬼役が代わるのが大事なポイントで、この作品にも自分自身と相手を分ける線もあるが、それが固定されず、自分の中のいびつな部分や自分じゃない自分らしさ、自分らしくなさに向けて鬼と言っている。そう考えているのではないかと思います。

金澤:鬼もどこか親しみのあるというか…何か本当に怖くて他者で、理解不能なものではなく、なんとか理解しようとする心情をもちます。日本の妖怪人気は、いわゆる西欧のデビルのような対象ではない。絶対的な悪という概念より仲間のような概念。
長谷川:「疲れる」は「憑かれる」からきているから、あなたが悪いんじゃない、と言われます。つまり、あなたにもコントロールできないものが取り憑いているから今ダウンしているだけであなたに責任はないという、人に優しい概念ですよね。
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ジハド・ジャネルとかけて何と解く?

田坂:マッピング・ジ・インヴィジブルと解く。
その心は?
田坂:見えないものを地図のようにしていく作業をしている。
私が担当した恵比寿映像祭のテーマは、マッピング・ジ・インヴィジブル。実はここ数年、ゴーストや不可視性をテーマにしています。メソポタミアの文字の話のなかで、幽霊や妖怪の歴史を時間軸で掘り下げるというよりは、地図のようにはめていこうとしている作品の印象の部分が面白いと思いました。
タイの映像作家、アピチャッポン・ウィーラセタクンの展覧会「Ghost in the darkness」(*《亡霊たち》)では、彼は歴史と排除された具体的な幽霊を分析していて、その行為とも繋がる印象を受けました。地図のようにしていくことで何か見えないものを考える、読めない文字から想起する部分があり、さまざまなアプローチがあると感じました。
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金澤:フォトジャーナリストだったジハドは、そのまま破壊された街を伝えることが、ある意味でどれくらい『本当のことが伝わるのか?』という倫理的な問いを掲げていて、オルタナティヴな伝え方、表現を模索して着想を得たのがこの妖怪のリサーチでした。

田坂:ジャーナリズムは政治的なものを直接伝えやすいメディアだと思いますが、映像ばかり流すよりも、それをいかにどこまで寓話にして、どんな可能性を引き出せるかということと歴史は繋がっているのかなと思います。

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ジハド・ジャネルとかけて何と解く?

黒澤:とっくの昔に蓋の開いてしまったパンドラの箱*と解く。
その心は?
黒澤:空っぽになったはずなのに、まだまだ出てきます。
この人類のスピードにもかかわらず、いろんな悪魔やデーモン、お化けや妖怪がいたり、ありとあらゆるイメージを皆が作ってきて、それが一体なんなんだ?という研究や、有識者もいる。本当は空っぽになった箱だけれども、まだそこを漁ると出てくる。あるいはそれを出してみようとする人がいる。もう一回、我々は解決できてない悪魔について考えてみようと、確かめていかないといけないのかという感覚です。
(*パンドラの箱:ゼウスが全ての悪と禍いを封じ込めて人間界にいくパンドラに持たせた箱。開けてはならぬと渡された箱が、彼女の好奇心によって開けられた結果、人類は不幸や禍い災いに見舞われ希望だけが箱の底に残ったというギリシャ神話)

金澤:まさにグローバリゼーションの時代に入って人々がサーキュレートしていく。だんだん境界が解けて、皆がひとつになっていく感覚が、ある一時期とても幸せなことのように話された時代もありました。そのより戻しのようなものが語られる時代、もう一回難民問題や移住の問題が語られる現状に直面していると思います。また作家がこういう表現を考え始めているのは興味深い話です。
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ジハド・ジャネルとかけて何と解く?

五十嵐:おしくらまんじゅうと解く。
その心は?
五十嵐:知り合う/尻合うことから始まる。
他者という言葉がでてきました。前橋には留学生が増えていて、もちろんそれを他者と見ることもできますが、人との壁が、場合によってはモンスターになってしまうし、それは向こう側からしてもそうでしょう。ずっと知り合わない限りはずっと他者でしかない。いかに他者として理解しようとしてもなかなか始まらない。まず一歩踏みだして知ることから始まることを、常に考えています。

金澤:身体の動きまで想像することができますね。見事です。
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ジハド・ジャネルとかけて何と解く?

澤渡:ブランド戦略研究と解く。
その心は?
澤渡:どちらも他社/他者の分析が欠かせません。
他者(社)と自社(自己)を照らし合わせてどう表象するかです。メソポタミアの、ネガティブなモンスターのイメージを我々に災いを成す存在、他者として捉えながらも、日本の妖怪という要素を足してハイブリッドなものとして提示し、しかもそこにご自分のモーションキャプチャを取り入れている。他者に自己を投影する二重の表現が面白いと思いました。
モンスターと妖怪は少しニュアンスが違うかと思いますが、参照した日本の妖怪は鳥山石燕(とりやま せきえん)の『図画百鬼夜行』と聞いて、日本人にとっての、恐怖だけでなく娯楽の対象として楽しむような、キャラクターとしての妖怪の要素がどのくらい反映されているのかなと思いました。

金澤:ブランド戦略リサーチ。絶対に避けるべき敵というより、自分たちの居場所を確保していくことができるのかという共生のイメージ。他者を知るとは、避けずに一部取り込み、何か共通点を探る動きでもあるように思えます。日本の妖怪は、妖怪ウォッチ、ゲゲゲの鬼太郎、ポケモンなど、人気コンテンツとして大きな成長を遂げ、親しみが込められています。私たちが彼の作った表象を観るときに、何か共感できる要因を見いだせるのではないでしょうか。
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ジハドのレクチャー・パフォーマンスの様子
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ジハド・ジャネルとかけて何と解く?

田中:鏡と解く。
その心は?
田中:自分に近いものほど怖い。(会場感嘆)
私は(ジハドさんが語るほど)怖い感情は無く、それは私が妖怪を完全な他者、異世界のものとしてしまっているからだなと感じました。よく不気味の谷の話では、ロボットが人に近づいていき、完全に近づく少し手前に気持ち悪さや怖さの感情があると言われます。それは自分とその対象との距離感に完成すると思っていて、私にとっては鏡で見る自分と、他者が観る自分との違いを知る時に気持ち悪さや、他に言い表せない怖さがあると感じます。妖怪との距離感が違うのは興味深いです。
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金澤:人種の違い、見た目、あるいは国籍の違いが明白であればあるほど、外国から来た人であれば、それなりに受入れられる。
一方で、見た目が近くて言葉が足りないとギョッとする感じ、違いがわかったときにの違和感ですね。
近ければ近いほど怖いという感覚、感性は彼の将来のリサーチや作品を発展させていくときに影響していくと思います。他者、差異がどこに本当に存在するのかというのは考えていくと深いですね。
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ジハド:貴重なご意見ありがとうございます。それぞれ異なる視点からの解釈、言葉で制作の経緯や内容を考察していくところを興味深く聞かせていただきました。私自身、子どもの頃から見ていたコンテンツだったポケモンが取り上げられるのが面白く、アピッチャポンはやはり気にしている作家なので、その映像作品に関連したコメントは嬉しいです。
金澤:妖怪を手なづけるという言葉をタイトルに対して、もともとてなづけられないものなので、キャラクターにしてしまおうと、操作することによって捉えきれないものへの豊かな尊敬する気持ちみたいなものが、もしかしたら縮小されてしまう危惧が提示されましたが、どう思いますか?

ジハド:飼い慣らす、という言葉は、飼いらす対象としての女性であり自然であり、飼いらせないと魔女になるという、そういう扱われ方をしています。対象は飼いらせない時点でもう他者になる。という意味での定義。飼いらせる瞬間から軍や学校があったりします。

澤渡:妖怪とは、日本で災害が多く、自然現象でよくわからない状況を説明する為に出てきたもの。名前を与えて説明する為のもの、よくわからないものをわかるようにするところがあると思います。石燕の話をしましたが、形が与えられて、飼いらされるのとどう関連するかわからないことが、畏怖のようなものになる。それをふまえてクリーチャー(Creature)というか、モンスターに少しシンパシーを感じる要素を感じたのですが、日本的な妖怪的な要素もあるのではないでしょうか。

金澤:妖怪を混ぜ合わせるって簡単に終わらないですね。いろいろな思考やテクストが入り込んでくる。彼が今回、飼いらせないモンスターを飼いらすモンスターと名付けた。飼いらせないのでは?という意見はもっともですし、そんなに簡単にはできない、ずっと続いていくリサーチになるかも知れないですね。

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2018-19年度活動記録集はこちらからダウンロードできます。




[写真:加藤甫 / 文字起こし・編集:石井瑞穂]













# by arcus4moriya | 2021-04-09 19:23 | Open Discussion_2018
『オープンディスカッション、または大喜利』その1 (2018.11/23,25 エリカ・セルジ)【アーカイブ版】
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みなさんこんにちは。石井です。
2021年度も始まりました。そしてようやく2018-19年度活動記録集が完成しました!遅ればせながら少しづつ、皆様の手にお届けするべく、準備しています。
記録集はダイジェスト版ですが、今回、掲載できなかった部分も含めて、2018年のオープンスタジオ(以下、OS)で実施された、関連企画『オープンディスカッション、または大喜利』【アーカイブ版】を公開します。

このOS関連企画は、2日にわたり美術館学芸員・キュレーター8名をゲストに招き、スタジオを巡りながらレジデントアーティストのエリカ・セルジジハド・ジャネルイリカ・ファン・ローン3名の活動・作品についてどう感じ、思うかを大喜利で伺いました。2018年度ゲストキュレーターは金澤韻さん。過去に前例のない拍手や歓声、臨場感溢れる来場者と作家らの様々な反応が垣間見えた対話の(ほぼ)全容を、遅ればせながらブログでお届けします。それでは、どうぞ!
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開催日|2018年11月23日・25日 
司会|金澤 韻[2018年度ゲストキュレーター]
登壇者|五十嵐 純[アーツ前橋 学芸員], 黒澤 伸[金沢21世紀美術館副館長], 澤渡 麻里[茨城県近代美術館主任学芸員], 三本松 倫代 [神奈川県立近代美術館 主任学芸員],田坂 博子[東京都写真美術館 学芸員], 田中 みゆき [キュレーター/プロデューサー], 長谷川 新[インディペンデントキュレーター], 山峰 潤也[水戸芸術館現代美術センター 学芸員] (2018年当時)

詳細|http://www.arcus-project.com/jp/event/2018/ev_jp181123160000.html

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金澤:学芸員やキュレーターは、芸術家の活動や作品をなにかにたとえて話すことも多いのですが、それをある形式にあてはめてみたら面白いのではないかと考えました。

皆さんテレビ番組「笑点」を見たことがあると思います。噺家がずらっと並んでお題に対してトークを繰り広げる「大喜利」は息の長い人気を誇っています。今日はその一番代表的な形式「何々とかけて何々と解く、その心は?」にあてはめて、各作家について語っていただきます。今回非常に尊敬する美術館学芸員・キュレーターの方々をお招きしました。皆さんに3名のレジデントの活動、作品についてどう感じ、思うか、を聞いていきたいと思います。もちろん私たちはプロの噺家ではないですけれども、真面目に何かに置き換えて伝えることで、会場の皆さんにも関心を持っていただけたら嬉しいです。
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【エリカ・セルジ/ Erika Ceruzzi】

金澤:エリカ・セルジは蚕を研究した作品です。蜘蛛の糸の強い特性をもつ糸をつくり出せる遺伝子組換え蚕に興味をもって、富岡製糸場、シルク産業の工場や、つくばにある農研という遺伝子組換え蚕の研究開発をリサーチしました。このリサーチ途中であるワーク・イン・プログレスは、「こういうことを考えました」、というプレゼンテーションになっているわけですが、人間の営みと一緒に連綿と展開してきた養蚕やシルク産業にある、家の中のようなホームな雰囲気と、研究所でハイテクなものに展開していく蚕産業の両方を、このプレゼンテーションの中に入れた形になっています。それでは、はじめます。

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《F1(雑種第一代)》 F1
Mixed media

エリカ・セルジとかけて、何と解く?
長谷川:きわどい事件ばかりを扱うスクープ記者の手帳と解く。

その心は?
長谷川:記事/生地にならなかったものたちでいっぱい。

ダブルコクーンが印象に残りました。使い方ではなく、関係性の在り方を示したのではないかという駄洒落です。

金澤:ダブルコクーン*とは、シルク産業で扱いづらい素材と聞きました。つまり、普通は1匹がひとつの繭を作るのですが、これは2匹の蚕がひとつの繭を作ってしまい、ダブルコクーン専用の加工の仕方もあるのですが一般的には難しいそうです。 (*日本では玉繭と呼ばれる)

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エリカ・セルジとかけて、何と解く? 
三本松:『マクベス』と解く。
その心は?

三本松:綺麗は汚い、汚いは綺麗。

 『マクベス』の詩の一節を思い出しました。欧米の方は靴を脱ぐのは嫌なのでは?と思いますが、スリッパに綺麗さを込める日本の習慣に対する作家の視点を面白く感じました。

学芸員としては、作品収蔵庫を清潔に保つ為に靴から履き替える行為と場所を思い出させるインスタレーションですが、スリッパは他人と共有するもので、気持ち悪いものでもあります。ちなみに布は埃を吸ってしまうので、収蔵庫内で使うのはゴムのサンダルです。綺麗な場所である畳が、農家では最も雑多な空間であったり、本来は一番綺麗な場所とされる畳を全部黒いゴムで覆ってしまうことは、日本人としてはショックだったりもします。一番綺麗と思われるものが実は一番汚い部分に反転している。同時に、内と外を反転させることによってショックを与える。綺麗は汚いになるし汚いは綺麗さになりうる。ややおかしな言い方ですが、作品として真っ当な状態の表現だと思いました。

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金澤:そのまま展覧会のタイトルになりそうな、そして作品を扱う学芸員ならではの回答ですね。

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エリカ・セルジとかけて、何と解く?

五十嵐:遺伝子組換え蚕とかけて昨今のカルロス・ゴーンと解く。

その心は?

五十嵐:半生/反省しかないでしょう。

反省する。もう片方は半分しか生きられない、の半生。蚕は半分しか成虫になれないと知ったのは、前橋も養蚕が栄えた町で、僕が担当しているレジデンスで作家が調査していたときです。人間の手によって、他者の力を加えられ人のために作られたものである。とかけてみました。シルクロードではないですが今でも群馬では養蚕が有名で、前橋で作られた絹が横浜に運ばれて世界に羽ばたいて、その名残が町のあちこちにあります。

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金澤:養蚕業は殖産興業の柱と位置づけられ、日本の近代化の象徴のひとつとして言われていますね。
その裏では、女性の安い労働力の歴史として様々な小説や映画にも出てくる。歴史、近代化、政治問題、そして国際化にも繋がっています。
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エリカ・セルジとかけて、何と解く? 

澤渡:軍事産業に近いスパイダーシルクとかけて開戦前夜と解く。

その心は? 
澤渡:どちらも強い繊維/戦意が必要です。(会場拍手)

繊維として作っていて、軍事産業のひとつでもある。

金澤:戦意と繊維ですね。アメリカのスパイダーシルクが軍事目的で開発されているのは、私は存じ上げなかったです。日本でも遺伝子組換え蚕でスパイダーシルクまでは開発されていますね。でも軍事目的ではないのでしょうか?

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エリカ:まだです。

金澤:もしかしたら将来的には?それは怖いですね。


澤渡:最初に資料を拝見したときに、バイオテクノロジーとか軍事産業とか、ハードな方面に行くと想像していました。実際拝見したら違う方面も盛り込まれていて、人の生活や日常性、歴史的なことにも目線が向けられていますね。茨城ではつくばに蚕影神社(こかげじんじゃ)*、養蚕の神を祀る神社がありますし、常陸風土記の時代から養蚕が盛んだったという歴史がある。蚕にまつわる神社があることも調査されたのでしょうか。

*(蚕影神社:正式名は蠶影神社。通称、蚕影山神社。全国の蚕影神社の総本社。 ( Wikipedia:蚕影神社より)


エリカ:神社は聞いていましたが、行くことは出来ていないです。茨城県では、当初は基本的につくばで行われる研究に特化し見ていくつもりでした。日本に来てみたら養蚕業や蚕と人間の関係性や、蚕が家でどうやって育てられるかという興味が出てきて、想定と全然違う方向にリサーチが進んでいきました。それは継続していきたいと思っています。

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エリカ・セルジとかけて、何と解く?

田中:家と解く。

その心は?

田中:身体/心体の延長と世界とのせめぎ合い。

シェルターとしての身体と、それが社会に影響を受けざるを得ない状況の今、に興味があるのでは、と。例えば車だと、車幅が自分の身体感覚になっているから普通に車庫に入れられる。感覚を延長させてどこまで自分の身体と捉えるか。身体だけに留まらず、テリトリーも身体の延長とすれば、どこまでをホームと捉えるか、道具とともに変わってくる感じがします。みごぼうき*も道具の延長として使われる物なのに機械に取り付けられている、それが面白いなと思いました。

*(みごぼうき:口立箒/実子箒:繭から糸口を引き出すために「みご=稲の穂の芯」で作られたほうき。繰糸機に取り付けられている)

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金澤:人間の身体が直接触れる所、畳に黒いゴムが覆われているのが奇妙な感じで、そこにもせめぎ合いみたいなものがみられます。作家のスー・ドーホーは、住んでいた家のある一部分をファブリックで等身大の構造物にします。家を服だと思っている。つまり、自分と外界とを隔ててどちらの都合も聞いて、仲介してくれる家と服は同じ概念。家は、ドア幅も肩幅に、階段の段差も足幅に関係しています。私たちがいる空間も、家としての大きなコクーンなのかもしれません。ファブリック、繊維がすごく小さなレベルから大きなレベルまで一緒に考えられるのがポイントですね。

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エリカ・セルジとかけて、何と解く?

山峰:コンピューターと解く。
その心は?
山峰:女性の重用/徴用。
コンピューターも当初、女性労働者が非常に重要視されていました。今のハードディスクのようなデジタルのメモリもなく、白い薄い紙が必要でした。パンチカードという紙に穴をあけた記号の羅列があって、それを読み解く天秤のようなものです。その記号をコンピューターに読み取らせて通信を円滑にしていくための莫大な作業を女性が担っていました。
近代の蚕産業と初期のコンピューターにおいても女性の労働力によって賄われていたという点で、同じ構造になっています。テクノロジーの進化で考えていくと、コンピューターも元々は完全に軍事目的で開発された技術で、この遺伝子改良された蚕の力と重なる部分があります。
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金澤:ひとつの表れがいくつかのレイヤーに汲んでいる、示唆に富んだタイトル。
ひとつは女性の廉価な労働力の搾取という問題を含んでいて、もうひとつは軍事目的。兼用されうる要素をを含んだものであるといえます。

エリカ:今回インスタレーションで見せたものは、特に養蚕業の歴史とスパイダーシルクと呼ばれる遺伝子組み換えされたもの、何かよくわからないものの出所に対する私の探究心が、いろいろなものとの組み合わせで現れた、ある意味奇妙な環境といえると思います。ご指摘のように私自身の身体の延長であるとも考えています。実は私の父がコンピューターの歴史家なので、コンピューターの発祥が当初。軍事目的だったことも知っていました。非常に嬉しかったです。
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次はジハド・ジャネルのスタジオで、大喜利です。つづく

[写真:加藤甫(オープンスタジオ会場) / 文字起こし・編集:石井瑞穂]







# by arcus4moriya | 2021-04-09 19:18 | Open Discussion_2018
Information on the 2011 Fukushima nuclear disaster (updated 2021)
Here's updated information on the effects from the Fukushima Daiichi Nuclear Disaster in 2011.

# by arcus4moriya | 2021-03-18 14:28 | AIR
2019年レジデントアーティストからのメッセージ - COVID-19の影響について -
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、現在世界中の美術館やギャラリーが休館しています。
(アーカススタジオは6/1まで休館。)

2019年にアーカスに滞在したアーティストたちも、今までとは全く異なる日常生活を強いられています。
それぞれの拠点でどのように過ごしているのか、ベルギー在住のクリストファー・ボーリガードと、東京在住の渡邊拓也に現在考えていることを聞いてみました。(5月初旬)


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クリストファー・ボーリガード | Christopher Beauregard
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食料品店に入店する列へ並ぶクリストファー


「どのように破産したのか?」と問われたアーネスト・ヘミングウェイの小説*のキャラクターは、こう答える。「2段階ある。徐々に、そして突然に。」厳格なロックダウンが続くなか、私は「これは一体いつ始まったのか?」と問わずにはいられない。今となっては、以前の状態を思い出すのも、先の未来について考えるのも難しい。COVID-19は、初めは、遠くで起こっている巨大な出来事の、途切れ途切れに聞こえてくる噂にすぎなかった。ヨーロッパでも感染が報告されるようになった時も、まだ多くの人は、よくある季節性インフルエンザのようなものだと思っていた。

1月下旬のいつだったか、パブで友人とパンデミックの可能性について話していたとき、彼は私にサイエンス・フィクションの読みすぎだと言いった。「それに、ヨーロッパは世界でも有数の医療制度を誇っているし、僕たちが恐れる必要がどこにあるというんだ?」イタリア全土でロックダウンが始まり、ほかのヨーロッパの国々でも国境の閉鎖と経済活動の封鎖が始まったとき、生活は一夜にして一変したのだ。

文化産業で働く私たちには厳しい状況が続いている。私たちの仕事の性質上、(短期契約での雇用やフリーランスが多い)ベルギー政府からはほとんど何の経済的支援も与えられていない。全てはオンラインに後退してしまった。アートのコミュニティは、オンラインに避難し、インターネットは困難に対して共通の声と、変化のためのネットワークを形成する「場」になっている。他の国々では家賃のストライキや、アーティストへの助成を求める声が上がるいっぽう、ベルギーはほとんど沈黙している。

私たちが峠を越しはじめているかもしれないという兆しはあり、ベルギーでは移動と経済活動の制限が近く解除されると言われている。それによって、生活は徐々に元のように戻るのではないかという希望はある。たぶんいつの日か近いうちに、スタジオへと歩きながら辺りを見回し、突然、全てが終わったのだと気づく時がくるのだろう。

*『日はまた昇る』1926年発刊。



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渡邊拓也 | Takuya Watanabe
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世界各国の鎖国政策が次第に始まり、日本でもオリンピックが延期になった。7月からベルギーのアーティスト・イン・レジデンスに滞在する予定だった私にとって、初めから他人事ではいられなかった。それでも自分にできることは外出を控えるくらいで、その他には本を読んで知識を得たり、語学の勉強をしたりすることくらいだった。そうした当初の守りの体勢によって、私はストレスを溜め込み、徐々に気持ちを沈めていった。

このままでは持たないと思い、まずは生活を見直した。人が街から減った時間帯に運動をして、日当たりの悪い部屋の窓際で極力太陽の光を浴びて、時には瞑想をして気持ちを落ち着かせた。次第に、日による調子の良し悪しや、自分が今どうしたいのかという身体が送ってくるシグナルに普段以上に敏感に反応していることに気づいた。また同時に、買い出しへ出かけると、人との接触はもちろんのこと、触れるもの、自分の息遣いにまで自分が普段よりも過剰に意識していることにも気づく。

次第に、このまま誰とも会えない生活がずっと続いたらどうなるのだろうかと妄想するようになった。当たり前と思っていた美術館、映画館も何もなく、人が集まることすら必要性がなければなされない、それが普通になったらと。近年の私の制作活動は、場所に赴き、人と出会うことから始まり、常に人との関わりを伴うようなスタイルとなっている。もしもこの状況が常態化した場合、今までのやり方では間違いなく成り立たないだろう。そんなことを考えながら制作のための準備をしていると、ある習慣ができた。それは、海外に住んでいる知り合いとビデオ通話をしながら、Googleストリートビューを使って、私の行ったことのない彼らの街の「いつもの場所」を紹介してもらうというものだ。しばらくのあいだ画面の中の世界で過ごして、妙な(しかしどこか心地よい)疲れを感じつつ、自宅の机の前に戻ってくる。これは、なにか精神だけが遠くへ飛んでいき、知る由もなかった誰かの日常の中に突然お邪魔して、即座にまた自分の身体に戻ってくるような体験。こうして画面収録された旅の映像がどんどん溜まっていく毎日を過ごしている。

これまでの自宅での隔離生活を振り返ると、今までなかったほど自分の身体の状態に対して気を配るようになり、一方では、身体を離れて遠くの場所へ精神のみ飛ばしている。この身体と精神がバラバラに活動する状態は、これまでの私の生活から考えると変な状態に思える。しかし、こうした世界的な社会環境の変化は、私だけでなく、多方面で少しずつその状態を受け入れていくのだろう。そして今は、不自然に思えることも「普通」のこととして溶け込んでいく。そう思うと私たちが普通と捉えていることは、本当に偶発的にそこにそうあったということを思い知らされる。この慣れない「普通」に抗わず柔軟に受け入れることが、目まぐるしく変わる世界に対して対応できる唯一のことと思いつつ、私は自宅でこのテキストを書いている。

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5月下旬現在、日本を含め、これまで感染が拡大していた諸外国でも少しずつロックダウンを緩和する流れが見えてきています。
私たちがこれから迎える新しい日常はどのようなものになるのでしょうか。

世界中を移動し、国際的なネットワークを形成しながら制作するアーティストと、それを可能にする従来のアーティスト・イン・レジデンスの仕組みは、これまでとは異なるあり方を模索することを迫られています。
そもそも、コロナ以前から「移動の自由」は、誰にでも許されたことではなく、ある特定の人々がもつ特権でした。
壁で仕切られた隣国に渡れない人々、パスポートも市民権も持たない難民、など世界には多くの移動を奪われた人々が存在しています。

物理的な移動が困難になり、ますますデジタル上のコミュニケーションが増えている現在の社会で、アートはどのように創造性を展開していくことができるのでしょうか。
アーカスプロジェクトでも、今年のプログラムをどのように皆さんにお届けしようかといろいろと思案しているところです。
近日中に皆さんとお会いできることを楽しみにしています!








# by arcus4moriya | 2020-05-23 13:00 | AIR_2020


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