“Interzone”におけるプラクティス:フロレンシア・ロドリゲス・ヒレス
皆さん、どうも!藤本です。
このブログでは、フロレンシア・ロドリゲス・ヒレスの“Interzone”におけるプラクティスについて、わたし個人の体験を挿みつつ記します。かなり長いですが辛抱して読んでいただけると嬉しいです。
ちなみに、プラクティスは日本語で「練習」もしくは、「実践」というような意味です。
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彼女がここでやったこと、もしくはやろうとしたことの説明に、2014年度ゲストキュレターの
西川美穂子氏の解説文を引用させていただきます。

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ヒレスの作品は、夢と現実、肉体と非肉体、言語と非言語といった様々な境界線の間を行き来します。神話や儀式を参照した表象を取り入れ、インスタレーション、衣装、パフォーマンス、絵画により、物語的な場面をつくりだします。様々な方法で舞台装置のような場面を用意することで、現実とフィクションとが融合する幽玄の世界に人々を招き入れるのです。以前に日本に滞在した折に出会った「能」も、その後の彼女の制作に大きな影響を与えました。今回の滞在では、近年おこなっている人々の夢を集めるプロジェクトを発展させています。参加者を募り、眠っている時に見た夢を報告してもらい、そこから得た要素を数回のワークショップを通して参加者同士が共有し合いました。ワークショップは基本的に作家が制作したマスクを参加者がかぶった状態で素顔を覆ったまま、誰かの夢の断片をほかの人が体を使って表現するというように、言葉よりも身振りや動きを中心におこなわれます。非合理的で曖昧な夢の中の出来事を伝える練習を繰り返すこのワークショップのように、ヒレスの作品はまるで現実と彼岸との間を自由に行き来するためのエクササイズのようです。

 ー 西川 美穂子(2014年度アーカスプロジェクト ゲストキュレーター/東京都現代美術館学芸員)


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私は、10回を超える上記のワークショップで通訳と、参加者約10人のスケジュール調整を担当しました。このワークショップのことをフロレンシアは「プラクティス」と呼んでいました。参加者各自でのFacebookへの夢の投稿は9月13日頃からすでに始まっていました。しかし、最初のプラクティスが行われたのは10月4日からなので、OPEN STUDIO 02での発表まで実質1ヶ月半の間の出来事です。
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プラクティスには実に多くの段階がありました。
今でも忘れません。1回目は、フロレンシアにとっては大きな不安を抱くものでした。
ここでの前に、アルゼンチンで行った同じプロジェクトとは参加者の反応が何もかもが違っていたからです。
その理由の多くは、感情を体で表現することへの姿勢やスピード感の差といった、日本人とアルゼンチン人の国民性の違いに拠るものです。そして、何より言葉が通じないために自分自身で直接コンダクトできないというやりづらさも大きかったでしょう。
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そもそも日本人の多くの人にとっては、自分の夢での体験をマスクを被ったあまり知らない人々に語り、その内容を体の動きに変換するという行為に行き着くまでに長い時間を要すると思います。そのことがわかっている私にとっては、ごく想定内の状況で特に心配もありませんでした。そして、むしろ「時間はかかれどきっと面白い現象が起こるだろう。」という期待を持っていました。
なぜならフロレンシアの、
「自分が覚えている夢の中にこれから身を置いてください。」
というやや唐突で抽象的な指示に対して、1回目から参加者がすんなりついてこれていたからです。これは、“日本人はアウトプットにはあまり慣れていないが、自分の内側に深く潜り込み、注視することが得意な人は多い”という事実を示しており、彼女のプロジェクトにおいてその事実はなかなかに重要な要素のひとつであると感じていました。フィジカル面は訓練すればどうにかなるだろう、と。

ただ、1回目の緊張感はものすごく、参加者の集中を妨げないために、記録写真も撮れないような状況でした。そのため、ここにランダムにのせている写真は、中盤以降の記録写真です。
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結局1回目は、体を動かすというステップには届かず、全員座った状態で「自分の見た夢を語り伝える」というところで終了しました。フロレンシアはこの事態に焦っていました。

フロレンシア:「どうだった?アルゼンチンでやったときと全然違って不安すぎるんだけど…」
藤本:「えっと…今日参加してくれた皆には本当に驚かされたよ。すんなりと自分のステイトを夢の中へ転換できていたし、すごい集中力だったし、そもそも日本人は表情やジェスチャーでの表現はあまりしないもんだから、まずはこれで十分成果があったと思う。わたしは日本人だからわかる。その代わり、彼らは内側にしっかり潜り込むことに長けてるんだよ。」
フロレンシア:「そういうもの? うーん…でもとにかく、これから全く違うアプローチの方法を考えなきゃ…。急がなきゃ。もっともっと練習の回数が必要になると思う。」
藤本:「うん…わかった。(でも、皆集れる日がそんなにあるかなぁ、やばい、けっこう大変なことになるな。)」

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その後、Facebook上でそれぞれの参加者が夢を書き記す行為と同時進行で、プラクティスは定期的に行われました。
時には、舞台経験のある方をお呼びして、参加者と体の使い方の部分を集中的に練習したり、
フロレンシアが参加者の見た膨大な夢の中から、ピックアップした部分を参加者それぞれに与えて、体で表現してもらったり。
※例えば…
「二人の人をへし折る」
「パスポートを燃やす」
「辞書を抱きしめる」
「うどんになる」などなど…。
もちろん他人の夢での出来事です。彼女は他人の見た夢へアプローチする行為に関しても練習を与えていました。


全員が輪になって、1から順にリレー形式でカウントしていき、2人以上が同時に数字をコールしたら、最初からやり直し、数字と数字の間に長く間が空いてもやり直し。それを1〜30までやりきる。
その次に同じ事を目を閉じてやる。や、
それと同じ事を数字の代わりに短い「言語ともつかない言語」に置き換えてみる。や…。
(ゲームのようなこれらの行為は、実はかなり難しく、成功したのは結局1度だけ。最後のプラクティスの時でした。)

普段の相手をよく知らないし、マスクで表情も読み取れない。しかしお互いの特徴や空気を読み取って、その場での関係性を構築していく練習のようでした。全員の意識が部屋に張り巡らされているような独特の空間です。ちなみに、プラクティスの際は基本そんな空間です。
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全員集まるプラクティスの他に、少人数ごとの個別のプラクティスを重ね…。
また、フロレンシアは、その合間にマスクに刺繍をしたり、縫い合わせたりをストイックに取り組んでいました。(この作業はこの作業で別の強力なサポーターさんが連日お手伝いしてくださいました。)
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後半は参加者自身が動きを生み出す練習をしていたように思います。
夢の中に登場した“物”を参加者に持参してもらい、それを使って即興的に動きを作る練習も何度か行いました。
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OPEN STUDIO 02でのプラクティスのために、参加者がそれぞれ与えられたいくつかの動きは、まさにそんな多層な練習の中からフロレンシアが掬い上げたものでした。つまり彼女が振り付けを考えたわけではない、ということです。
加えて参加者には、その人それぞれに集中して自由に動く権利ももちろん与えられました。人に見せるためのパフォーマンスではなく、参加者が夢の中でも現実でもない状態に身を置くことが大事です。
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もちろん、フロレンシアから明確な指示もあります。例えば…
夢を伝える時に、最初は流暢に話す、次にどもりながら話す、さらにどもりを強くして、最後にどもりではなく、「言語のようで言語じゃない言語※グロソラリア(異言:学んだことのない外国語もしくは意味不明の複雑な言語)」で話す。それに対して、周りの人は続けていきながら、それとは別に関係性があるような“音”を発してハーモニーを作る。
…というようなものです。
最終的には互いが何をしゃべっているか聞き取る事はできす、全ては発されるあらゆる音に集約され、それが空気を形成します。それでも参加者はあくまで「夢を語り」合って「夢を聞き」合っているのです。その空気の集中力のようなものを彼女も感じ取り、参加者同士も感じ取っているので、言語化はできないけれど“良い状態”と“良くない状態”というのがはっきりと存在します。
参加者それぞれの鋭敏な意識が張り巡らされ、言外でのやりとり、つながりが常に変化しながら、この普通過ぎる畳の部屋に濃密に流れています。
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今思えば感慨深い出来事があります。

プラクティスを重ねていくなかで彼女の言葉遣いが徐々に抽象的になってゆき、それまでの内容を知らない人では到底理解できないようなやりとりが積み重なっていきました。最初の頃の通訳の作業は、彼女の使う言葉の定義を事前に慎重に確認しながらでしたが、徐々にそれをなくしても互いに通じるようになり、
終盤にむけて、私は必要最小限の通訳だけをするようになり、ことに言外にあるもので参加者とフロレンシアとの間の関係が構築されるようになっていきました。彼女が言葉では言わない“到達点(※作品の最終形というわけではない。)”の状況を私を含め参加者の間で完全に共有できているような空気感がありました。

まだ完成はしていませんが、フロレンシアとは「いくつか奇跡的なコンビネーションが生まれた。」と後日何度か話したものです。

ブログはOPEN STUDIOS02での最後のプラクティスに続きます。
長文を最後まで読んでくださって、どうもありがとうございました。
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by arcus4moriya | 2014-11-14 11:27 | AIR | Comments(0)
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